機動の戦士 第十四話 ~守護~


爆発の光に呑み込まれるズゴックEをモニターで確認し、
ク・マオーは叫んだ。
「貴様ぁ!!よくもローズを!」
ク・マオーは怒りの感情が噴出したことを自分自身で驚いていた。
数条のビームの光がTHE-Oに向けて放たれる。
直撃はしなかったものの,至近距離に着弾してもミライの機体はまったく動かなかった。
ミライの心は,死にゆくローズの意識に共鳴していた。
ローズの心が生まれた場所に還る瞬間の感覚をミライは共有した。
ミライの心は死を体験したのだ。
ミライの心臓は拍動していた。
彼の肺も呼吸を続けていた。
しかし,その精神は死を経験したのだ。
受けたサイコダメージのレベルは最早図り知れない。
その時点でTHE-Oはパイロットを喪失した。
いかにパプテマス・シロッコの開発したサイコミュシステムでも,
パイロットが死んでいてはシステムが反応することはない。
THE-OがナイチンゲールⅡの攻撃に何の反応も示すことがなかったのは,
ミライの身体がその中に精神を容れていなかったからだ。
ク・マオーは更にTHE-Oに肉薄し,ビームライフルの銃口をコックピットに向けた。
次の一撃を受ければ白亜のMSは四散するであろう。
「モンベツ,最大船速!」
ユリコは叫んだ。
「しかし,それではミライ機に接触・・・」
丁の言葉を遮ってユリコは続けた。
「かまわん!このまま直進してTHE-Oを撥ね飛ばせ!」
ビームの直撃で灼かれるより,物理的な衝撃の方が助かる確率が高いであろう。
ユリコは直感的な判断でミライ機にビッグトレー級戦艦の進路を向けた。
ク・マオーの人差し指がトリガーを引いた瞬間,
モンベツはTHE-Oをすくい上げるように弾き飛ばした。
そして紅い機体から放たれたビームはモンベツの艦橋を掠め、水平線の彼方へと消えた。
「チィッ!この私が感情に流されたというのか?」
自分に接近してきた巨大な艦にまったく気が付かなかったとは。
ク・マオーはモンベツとTHE-Oから距離をとった。
冷静な自分を取り戻すために。
ビームの熱波に煽られ,艦橋を覆っていた厚い強化ガラスは全て微塵に飛び散った。
破片の下から這い出た丁は,自分が生きていることを確かめた後,艦長を見た。
ユリコはいつもの毅然とした姿勢のまま,艦長席に座っていた。
「艦長,無事でしたか?」
あの爆風の中,艦長然たる態度を崩さないユリコに畏怖の念さえも感じたが,
ユリコ艦長を見て丁は言葉を失った。
「・・・艦長?・・・」
恐る恐るかける声は震えている。
艦長席から立ち上がれなくなっているユリコはかすかに唇を動かした。
「・・・まだ・・・,生きているよ・・・」
左目だけを丁に向け,ユリコは応えた。
ビーム粒子は,ユリコの右半身と艦長席を焼き,その両方をまさに“溶接”していたのだ。
「艦長!今!今すぐ助けます!」
丁自身,救う方法がないことを知りながらも叫んだ。
「私はいい・・・自分のことは自分で良く判っているつもりだ・・・ミライ大尉は?」
丁は強化ガラスの無くなった艦橋から,肉眼でTHE-Oを確認した。
「THE-O!確認しました!しかし動きがありません!」
「そうか・・・,しょうがないヤツだな・・・,私が迎えに行ってやる・・・」
~つづく~
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この物語はフィクションです。
登場する人物,団体は元ネタが容易に想像つくかも知れませんが関係ありません。
当ブログに名前を連ねた方はご注意ください。
ですが関係ありません。

投稿者:

みらい

西森未来と申します。 カメラとベースの修行中です。 自転車が大好きです♪

“機動の戦士 第十四話 ~守護~” への6件のフィードバック

  1. 毎回よく書けてるなと感心しながら読んでおります。
    執筆時間っていつもどのくらいなんですか?

  2. ご愛読いただいてる読者の皆様、お久しぶりです。
    とある方にメールをいただいたおかげで
    ストーリーが走り始めました♪
    もうすぐでこのお話は終わりますが、
    もう少しお付き合いくださいませ。
    >トドマー中尉
    13話のUPが4カ月前ですからね、それを勘定にいれると執筆は4カ月かかってることになりますが・・・
    実際は構想7時間、製作30分くらいです。
    お誉めにあずかり、光栄です♪
    >ク・マオー大佐
    ちゃんと出版って言っても、コレ、パロディですしね♪
    角川書店のガンダムエースにでも送りつけてみますかね?
    >ユリコ艦長
    大活躍でしょ?
    痛そうだけど。
    次回もお楽しみに!

  3. 待ってました!続編お疲れ様です。
    ローズ少尉のニュータイプ能力ってけっこうレベルが高かったんですね。サイコミュ搭載のTHE-Oが影響を受けるくらいですからね。ミライ大尉の意識は戻るのでしょうか?続編期待しています♪

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