機動の戦士 第十一話 ~救援~


「貴様,何者だ?」
ユリコは事情を知り過ぎている少尉を問い詰めた。
丁少尉はTHE-Oがモンベツに配備されるとともに
月面のグラナダ基地から配置転換されてきた新任士官であった。
「・・・私は・・・」
床を見つめていた目を艦長に向けなおし,丁は言った。
「私はアナハイム・エレクトロニクス社に出向していた技術少尉でありました。」
彼は,ニュータイプ専用機であるTHE-Oのサイコミュシステムの解析に携わっており,
実使用時の試験データを採取するためにTHE-Oとともに着任したという。
「ミライ大尉はGMで大気圏突入して生還したでしょう?上層部はそこに目をつけたんです。」
先の戦争中,ミライは成層圏近くの戦闘で地球の引力に捕まったものの,
GM単機で大気圏を突破した。
これを軍上層部はミライのこの危機回避能力をニュータイプ的能力の発動の可能性があるとし,
監視下に置くためにそのまま宇宙軍から地上軍へと異例の転属命令を出したのだという。
「その情報は最高クラスの軍事機密と見るが,いいのだな?」
艦長の質問に,丁少尉は力強く頷いた。
「釜に火をくべろ!モンベツ,発進する!」
「モンベツ!発進!」
丁は艦長の命令を復唱しながら,
我ながら馬鹿なことをしていると内心自嘲した。
そして地球に降り立ったばかりのことを思い出していた。
「MTBって乗り物知ってるか?」
独り,基地の食堂で食事をしている時,ふいに声をかけられた。
着任してまだ1週間も経っていない頃だったろうか?
あまりの馴れ馴れしさに警戒心さえ抱いたものだ。
無遠慮に向かいに座った男の顔を見ず,階級章に目をやりながら丁は応えた。
「いいえ,知りません大尉。」
「なんでも荒地を走るための自転車らしいぜ。」
荒地?そう言われても丁にはピンと来ない。
「荒地ってなんです?」
「俺もコロニー育ちで知らなかったんだが,地球には自然のままの地形があるんだってよ。」
丁も目の前に座っている男も宇宙生まれの宇宙育ちだった。
人工的に作られた街に自然の地形は無く,全てが作られた景観だ。
しかし地球には人の手が入っていない土地があり,
そこに行くためには自分自身の力を使わなければいけないらしい。
「今度の休みに行ってみないか?」
それが丁とミライの出会いだった。
千歳基地の南にある湖までの輪行は,
スペースノイドの二人には地獄の苦しみを味わっているようであった。
しかしそこで見た景色は,
丁にとって忘れられないものになっていた。
「あの直後は二度と行かないって思ってたハズなのにな・・・」

~つづく~
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この物語はフィクションです。
登場する人物,団体は元ネタが容易に想像つくかも知れませんが関係ありません。
当ブログに名前を連ねた方はご注意ください。
ですが関係ありません。
模型提供:ひゅうん@ミライの弟

投稿者:

みらい

西森未来と申します。 カメラとベースの修行中です。 自転車が大好きです♪

“機動の戦士 第十一話 ~救援~” への5件のフィードバック

  1. T少尉の人物像が明かされ、リアリティが増してきましたね。
    そしてミライ大尉との個人的関連性。
    期待させますね。
    それにしてもすげえ。
    艦本体発進っすか。そりわ想像の範疇を超えていました。

  2. 2話続けてお疲れ様です!
    ミールの意味、知ってますよ~でもここでは内緒にしておきますね。
    ミライ大尉はコロニー育ちではあるものの、地球の自然が大好きなところはリアルミライさんと同じですね(^^)
    それにしても画像の加工が綺麗です。違和感ないです。カッコイイです。←もちろんプラモと月の画像のことです。

  3. >ユリコ艦長
    艦長のセリフ,自分自身書いててシビれました。
    だって「釜」ですよ?
    いや,カッコいー!←自画自賛(笑)
    でも多分,その後の展開は想像通りでしょう♪
    >ローズ少尉
    内緒サンキューです。
    もう何ヶ月も前に書いてあったところに
    もう少しで辿り着けそうなのでちょっと頑張ってみました。
    人物像はモデルがいるだけにリアルに感じられるんでしょうね。
    画像の加工,これがやりたくてお話かいてるようなモノですから(笑)

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