ズゴックEの放ったビームがTHE-Oの前面で爆炎に変った。
「当たった!」
しかしそれはビームライフルを直撃した爆発で,機体自身にはそれほどのダメージはなかった。
飛び道具を失ったミライは両腕と二つの隠し腕にビームサーベルを装備し,
近接戦闘モードのプログラムを走らせた。
とは言ってもミライの意識は既に無く,
THE-Oのシステムがそうさせているのだったが。
ローズはそれと知らず,とどめを刺すべく白いMSに近づいて行った。
その時,2機のMSの間を,カラフルな機体が通過して行き,
ローズの注意が奪われた。
二人の中尉の乗った戦闘機は攻撃する能力を持たなかった。
そのため,戦いの思惟もまた持っておらず,THE-Oのサイコミュは彼らを感知しなかった。
無意識のままに戦闘を強いられているミライには気づく術さえなかった。
ローズのデータベースには目の前に突然現れた機体の情報は無かった。
この予期せぬ出来事は,ほんのわずかではあったが
半ば有機コンピュータと化した大脳の処理能力を遅滞させてしまっていた。
トドマーとネコサーマは二つの巨大な人型の間をすり抜け,
両機にはかすりもせぬまま海原に落ちていった。
しかしながらこの二人の行動は,結果的にミライに,
否,THE-Oに有利に働いた。
そしてローズには致命的なミスをさせることになった。
「いない!?」
見失った?戦闘中に呆けていたのか私は?
ズゴックEのコックピット内にアラートが鳴り響く。『敵は後ろ』だと。
ローズの一瞬の虚をついて,THE-Oはその機体を移動させていた。
「・・・これで・・・終わるのか・・・」
かすかに残ったミライの意識で感じられることは,これが精一杯だった。
すでに感覚の無くなった両手に握ったレバーを動かした時,
THE-Oの装甲を通して,ミライの心の中にある景色が膨らんで見えた。
ゆっくりとした時が流れる音の無い白い闇の中,誰かが話しかけてくる声が聞こえる。
ココは何処だ?
まだ子供だった頃の私?
大佐と初めて逢った時・・・
「お前は何番目だ?」
ク・マオーは軍施設にはおよそ似つかわしくない少女に声をかけた。
少女は猫の額ほどの花壇に咲いた薔薇の花から視線を動かさずに,
小さいがはっきりと判る声で返答した。
「7番目。」
小惑星基地「アクシズ」内のニュータイプ研究機関に配属されてから,
マオーは同じ容姿を持つ少女を何人も見ている。
ここでは第二世代のクローン型強化人間の計画が進行していると聞かされてはいたが,
詳細な説明はされてはいない。
それは彼も被験者の一人であったからだ。
「その花,好きなのか?」
今度は声に出さず,少女は頷くだけだった。
「旧世紀の音楽にな,ブルースってのがあるんだ。7thコードってのはブルースに使われるカッコいいコードなんだぜ。」
唐突に変った話題を理解できず,少女はマオーの顔を不思議そうに見上げた。
その少女の目を見つめながらマオーは言った。
「今日からお前の名前は“ローズ・セブンスコード”だ。」
生まれてから一度も音楽を聴いたことがない彼女にとって,
和音など知る由もなかったが,彼女は心の中でその名を反芻した。
「私は・・・ローズ・・セブンスコード・・・」
ローズ・セブンスコードはその瞬間に生まれた。
7thコードは三和音の中に根音から7番目の,本来なら不響である音を入れることによって
より良い響きを持たせた四和音だと,ローズは随分あとになってから知った。
“7番目の不響音”
なんて自分にぴったりな名前なんだろう。
それでも不響和音にはならずに,音楽として,和音として成立しているセブンスコード。
生命の繋がりのシステムに入ることができない自分の立ち位置に思いを馳せ,
それでも世界を構築できるということに気付かせてくれた名前。
その名前を得たと同時に“自我”を得ていたことに改めて気がついた。
また,自我をくれた男に特別な想いを抱き始めていたことにも。
爆発するコックピットの中で
ローズは光に飲み込まれ,消えていった。
つづく
第十二話← →第十四話
この物語はフィクションです。
登場する人物,団体は元ネタが容易に想像つくかも知れませんが関係ありません。
当ブログに名前を連ねた方はご注意ください。
ですが関係ありません。
最後のバラの写真はフリー素材です。
残念ながらボクの作品ではありません・・・
感動。ローズ少尉に捧ぐ
ローズ
きみは戦野に咲いた一輪の花
ローズ
きみは戦うために生まれてきた
ローズ
きみは作意のもと育てられた花
ローズ
きみは同じ顔を持つ中の一人
ローズ
けれどきみは自我を得られた花
ローズ
きみはきみ以外の何者でもなく
ローズ
きみは心にあこがれを抱けた花
ローズ
きみは戦場で誰を思ったのだろう
ローズ
きみは紅の炎に散り行く花
ローズ
きみは最期に誰を思ったのだろう
ローズ
はかなく戦場の風に散った一輪のバラ
ローズ・・・
強化人間の最後はいつもコクピットの中。それが望ましいと思っていましたが、さすがミライさん!上手いこと話をまとめましたね。ローズ・セブンスコードという名前から「7番目」であることはなんとなくわかっていましたが、本当の意味は「7番目の不響音」なんですね。まさにピッタリです。この後どうなるのでしょうか、(ローズ少尉の出番がなくなりましたが)続きが気になります。
>ユリコ艦長
この部分が最も書きたかったクダリの一つです。
感じて頂き,ありがとうございます。
ガンダムという作品の二次的産物であるボクのオハナシが,
こうして誰かの心を動かし,さらに作品を生むなんて
思ってもみませんでした。
もう一度ありがとうございます。
さて,このオハナシ,あと1度ピークを越えたらオシマイです。
キミは刻の涙を見る♪
>ローズ少尉
このローズ少尉の最期の夢の部分を一番最初に書きまして,ここに繋げるまで数ヶ月かかってしまいました(笑)
このあとはミールが絡むオハナシです。
ボクの中ではローズ少尉はかなり存在感の大きなキャラクターになってしまったので,次回作でも出演していただきたいところですね。