『桜の森の満開の下』

 小田原文学館は、サクラの並木道である西海子小路に面しています。
 サクラの満開時期にはさぞかし華やかなトンネルとなるのでしょうが、満開時期以外は物静かな通りです。

 サクラが咲き出せば、それまで地面ばかりを見つめていた人々も、上を見上げるようになります。
 中には「花見」と称して宴会に盛り上がるグループも出てきます。

 ただし、サクラの開花に浮かれるようになったのは、江戸時代からのようです。
 それ以前の人々は、サクラに惹き付けられまいと、サクラを遠ざけていました。
 サクラの開花は、怖ろしかったからです。

 サクラは、近年のような里桜としてではなく、古くは山桜として存在していました。
 深い山間を抜ける際に、普段とは異なる妖艶なサクラ色に出会えば、不気味さを覚えたことでしょう。

 そのような人々の不安を利用しながら、桜の森の満開の下では、山賊が悪行を重ねます。
 さらに、山賊の手に掛かった人妻は、鬼女と化し、人間の首集めに興じます。

 惨憺たる光景ですが、サクラは平然としています。
 植物や動物が命を終えては、土となり養分となり、サクラの開花を後押ししてきたからです。
 土葬ないし自然死となった人体も、サクラの開花に関わってきました。

 万物は、生のみならず、死をもっても、サクラの現生後生に寄与し続けます。
 小田原で一時期を過ごした坂口安吾の『桜の森の満開の下』は、万物の繋がりを考えさせる作品です。

大塚山 サクラ

〈 小田原文学館 〉小田原紀行 その二

〈 鎌倉文学館 〉鎌倉紀行 その二
 
 
 

      前回の問題 解答
 尾崎一雄・川崎長太郎・北村透谷・佐藤春夫・谷崎潤一郎のなかで、出生地が小田原なのは、川崎長太郎と北村透谷です。
  
 

 
      今日の問題  
 「西海子小路」は、何と読むでしょう。
       

 

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